私が…己が身を胸に擁く彼女を、大切だと感じるのは至極当然の事であろう。
私を胸に抱きながら、穏やかな寝息を奏でる、私の金色の天使。
私はこの黄金色の髪を持つ天使を守る騎士だ。
といっても……私は自力で動く事が叶わない。
しかし彼女の意志を元として彼女の『力』を受けて動く事ができる。
彼女の心を守る騎士だ。
私はそれを誇りとしている。

私の名は、ジャンポール。

彼女が与えてくれた、私には誇るべき名だ。
私が、私としての意識を持ちえた時期を、私は知らない。
しかしながら、私は金色の天使と出会ったときの事を、明確に覚えている。
『わぁー、パパっ!ママっ!ありがとぉーっ!!
アイリス、この子たいせつにするねっ』
金色の小さな天使は、私を抱き上げ、私を彼女に引き合わせた彼女の両親に、満面の笑みで礼を言った。
その後、鉄線が埋め込まれたガラスに囲まれた部屋で一人となった小さな私の天使が、ポツリと呟いた言葉を……私は今でも忘れない。
『アイリス……ひとりはイヤだよぉ………
ジャンポール……アイリスのお友達になってくれる……よね…?』
月の光が淡く室内を照らす中、青銀の明かりに浮かび上がっていたのは……
頬に涙を伝わせつつも、まっすぐに私を見つめる、金色の天使だった。
その時、私の中に忠誠が刻まれたのだ。
私は彼女の心を守ろうっ!
いかなる時も彼女のそばに在り、その孤独を打ち払おうとっ

以来、私は常に彼女のかたわらに在る。

しかし……
私は彼女が纏う孤独感を、ついに私自身の力で拭いさる事はかなわなかった。
確かに幾分かの癒しと慰めになったと私自身は思っている。
私と、私の仲間たちと戯れるとき、金色の天使は無邪気な笑みを浮かべていたのだから。
だが、不意にその愛らしい表情が孤独に翳る事もまた、私は記憶していた。

しかし今は違う。
この『日本』という異国の地に来てから、金色の天使は安らぎを得た。
ここには、金色の天使と同じ力を持つ天使たちが居た。
キラキラと輝く『何か』を持った天使たち。
私の金色の天使は孤独ではなくなった。
同じ力を持つ『仲間』を得たからだ。

ある日、騎士が現れた。
黒髪黒瞳の異国の騎士。

『ね、ジャンポールっ。アイリス、あのお兄ちゃんのこと気に入っちゃった』
金色の天使が淡いながらも恋を知った。
私は何故か一抹の寂しさを覚えたが、私が彼女の傍らに在る事に変わりはなかった。

戦いに、舞台に、勝利……そして別れ………
私の天使は成長してゆく…さまざま出来事からさまざま事柄を吸収して。
幼い子供から少女へと変貌してゆく。

再会があった。
更なる天使との出会いも合った。

一人は黒髪にエメラルドの瞳の天使。
もう一人は、銀髪にアイスブルーの瞳の天使

私は最初、銀色の天使は騎士だと思った。
しかし、私の金色の天使はすぐに私の間違いを正してくれた。
クスクスと笑いながら私を抱え上げ、
『あのね、アイリス最初はレニのこと男の子かと思っちゃった。でも、アイリスとおんなじ女の子なんだよ』
『レニってアイリスの年に一番近いんだって。お友達になってくれるかなぁ』
きらきらと瞳を輝かせて語る金色の天使。
後に、その言葉が現実のものとなったことを私は知っている。


私の名は、ジャンポール。

鼻に切り返しの有る、茶色いテディ・ベア…くまのぬいぐるみ。
金色の天使の、一番のお気に入り。

金色の天使が成長し、私の居場所が彼女の腕の中からその居室の一画に移ったとしても…
私は彼女の側に終生、在るだろう……


私は、金色の天使の生涯の『友だち』である。






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かなり私的な後書き

小説というより、詩的な散文となってしまいました、ジャンポール1人称SSです。
どうも私は、アイリスを他の人物から見た物語が好きなようで、
もっぱらレニ視点でSSの構想を練っているのですが、じょや様の
「アイリスもんじょ」にありました、『たいせつな“おともだち”』に影響を受けまして、
つらつらと手が勝手に書き始めた代物です。
ええ、手が勝手に書き始めたものですから、早々にお話に詰まってしまい、
最終的に私の脳みそがうんうん唸って捻くり出すという、有る意味とっても自業自得な難産SSでした。
今まで書いた事の無い短さのSSで、後悔の残る代物ですが、読んでやって下さいませvv
      

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