[ 第 8 回 ]    “  奈  落  ”    後  半


 そういえば、おたより紹介しなきゃデ〜ス!
 そうだねっ、さっきから全然、関係ないことばっかり言っちゃったね。
      あっ、アイリスがいけないんだね。ごめんなさぁい。
 まぁそれよりもうちらの乱入のせいが大きいかもな。
 おたより、読むね。えっと・・・、
      「おっす! もりあがってるか? さっそく質問なんだけどよ、
       なんで舞台の下のことを “ ならく ” って言うんだろうな?
       あたいたちはよく“炭坑”って呼んでるけどな。よ〜く教えてちょーだいっ!」
 ・・・なんか、話し言葉で書いてますけど、どこかで聞いたような言い方ですネ・・・?
 このおたよりは、銀座の桐島さんからです! ・・・え? カンナ!?
 カンナはん!? なに、ちゃっかりおたより出しとんねん・・・採用されとるし。
 今日のおたよりは、ラヂヲの人から手渡されたヤツで、私達がまだ読んでなかった
      手紙だな〜と思ってたデス。なるほど、こういうたくらみでしたか・・・
 「奈落」なら・・・関係あるね。
 ん? あ、そうやな。舞台用語やから、今までの話も関係あることになるで、アイリス。
 ほんと? きゃはっ、カンナありがと!
 舞台や花道の床下、地下室や通路ですネ。
      そういえば「炭坑」って言ってますけど、ほんとは「奈落」というのですネ。
      暗くて、こわぁ〜〜いですネ〜、アイリス?
 うん、でもね、こないだはカンナが手をつないでてくれたし、
      だれかがいっしょだから怖くないの。それにね、アイリスあの場所 好きだよ!
      出番前にどきどきしながら待ってたり、ヒソヒソおしゃべりしてたり!
      裏方さんたちがいっしょうけんめいお手伝いをしてくれてて、
      なんだか、みんなで舞台をつくってるんだ〜って気がするの!
 そうやな、まさに裏方は、「縁の下の力持ち」や。
 帝劇の舞台はいいデ〜ス。役者も裏方もみんないい関係で しっかりつながってマス。
      おっと・・・これではラヂヲで身内の自慢話になっちゃいマスネ?
 そうやね、でもそういうことが感じられるからアイリスも「奈落」が好きなんやろ。
 不思議。もともとは「奈落」という言葉は・・・
 ストップ! 説明するのは私の役デ〜ス!
 「奈落」いうんは、仏教の言葉で「地獄に落ちる」っちゅう意味や。
      六道思想でいう最低の、どん底にあるのが「地獄」やな。
 だ〜か〜ら! ワ・タ・シ・が・しゃべりマ〜ス!
 サンスクリット語の naraka の音写が転訛した。
      意味を転じて、物事のどん底や最果てを意味するように・・・
や・め・な・サ〜イ! 輪廻転生 させますヨ!!
 織姫こわいよ〜!
 ごめん。・・・調子に乗った。
 すまんすまん。続きは織姫はんからお願いします〜。
 まったくも〜。では、気を取り直して・・・。
      今レニと紅蘭が言ったように「奈落」は縁起でもない言葉デス。
      それなのになぜ「演技」を重んじる舞台の床下をそう呼ぶのでショウ?
 なんや今うまいこと言うたで。
 どうして、そう呼ぶの?
 それではお答えしまショウ。昔はね、回り舞台とか、せり出しの
      装置の置かれた場所が、今よりずっと暗かったんデス。
      そりゃもう地獄のようにマッッッックラだったのデス。
      だから「奈落の底のようだ」ってことで、「奈落」と呼ぶようになったデス。
 そうなんだぁ〜!
 帝劇の舞台の下は、けっこう灯りもあるでしょ? 紅蘭の発明もあるし。
      だから雰囲気が「奈落」というよりは「炭坑」なのですネ。
 そりゃほんまに文目も分かぬ闇やったら不便やもんなぁ。
 ねぇ、「たんこう」って、石炭を掘るための穴だよね。
 うん。人々の生活を、ささえている。
 人は何のために石炭を掘るのか。みなさん考えを述べてくださ〜い。
 生きるため。
 うちも「生きるため」やと思う。それは家族のためであったり、自分のため
      だったり、人の世の発展を夢見たり、いろいろやろうけど、
      とにかく、人は人のために石炭を掘るんや。
      まっくろになって、汗水たらして、石炭という宝を得るんや。
 アイリスは石炭掘ってないけど、石炭のお世話になってるよね。
      炭坑で働いてる人たちに感謝しなくっちゃ・・・
 そうなのデス! 人はそれぞれ別々の目的で生きてマス。でもみんな関係していマス。
      お金持ちだって、石炭が無かったら生活困るはずデス。おっきな会社の社長さんも、
      農作業してる人がいなかったらゴハンにありつけまセン。
 人の生活は人と人との関係の上に成り立つということやね。
      だれがどうなろうと関係ないなんて言うてはあかんちゅうことや。
 みんな、それぞれ役割がある。誰かに、必要とされている。
      ・・・ボクは、この帝都でそれを知った。
 ・・・アイリスは、何の役割なのかな? アイリス、なんにもしてないよ?
 なに言うてますの。アイリスはすごいことを ぎょうさん しとるやないか。
      そうやな、そのひとつは、人々に夢や希望を与えているということや。
 ・・・ボクにとっては、アイリスが「そばにいてくれる」・・・
      ・・・それだけで、うれしい。
 レニ・・・! アイリスだって、すごくすごく嬉しいよっ・・・
 舞台も同じやね。役者がいて、裏方がいて・・・
      それぞれが手をとりあって、いい舞台をつくっていくんや。
 そしてお客様がいてくれマ〜ス。
      炭坑が人々の生活を支え、同じように帝劇の「炭坑」は舞台を支え・・・
      お客様の拍手が私達を支え。私達もお客様の心の支えになれたら・・・
 みんなで手をつないだら、おっっ・・・きな輪になるよね!
 人間が関係し合い協力し合えば無限の可能性が生まれるんや。
      この世はもしかしたら「地獄」の上に成り立っとるかも知れへん。
      けど、みんなが本当に気持ちでつながったら、地獄かて明るう照ら
      せるかも知れん。うちは、そんなふうに思うんや。
 炭坑は独りじゃ掘れない。 ボクたちも・・・だよ、織姫。
 はい?
 すみれに、協力しなくちゃ。・・・アイリスといっしょに。
 あ・・・そうか。ここまで言ったら、「 関係ない 」なんて言ってられないですネ〜。
 エヘヘ、そうだよっ! みんなで「 関係ある 」公演にしようね。
           「「 夏に愛、ここに恋、逢いに来い! 」」
 愛は、いつくしみ。恋は、あこがれ。何を意味するにせよ、人と人との関係ですネ。
 愛でも恋でも友情でも、人を敬う気持ちに変わりはない。
 うん! 人を好きになるって、オトコとオンナの関係だけじゃないんだよっ!
 OH !! なんだかアイリス、さらっと深いこと言いました!
      ・・・このまま続けたいところですケド、そろそろスペッシャルな時間も
      おしまいなのデ〜ス!
 なんやひっかきまわしてもうたなぁ〜。堪忍したってや。
      みなはん、これからも“ことのは華劇壇”よろしゅうに!
 よろしく。
 ではでは、またお会いしまショウ! チャオ!
 ばいば〜〜い!!



★ 次回予告?(帝劇にて)★

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