バレンタインSS

      【 チョコレート・ボンボン 】



                     文章:  鷹 月 孔  様

                              2005. 2








チョコは、ビターとスィートの2種類を用意する。
溶かす時にはボウルに入れて湯せんでゆっくり…。
もちろん、ちゃんと刻んでから溶かす。

最近になって、やっと包丁を一人で使う事を許されたアイリスが、
嬉々としてビターチョコを刻む。
意外と上手に煉瓦のような塊のチョコを削っている。
その横でボクがスィートチョコを削る。

「レニ♪はい、あ〜んvv」

言われて思わず、雛鳥が餌をもらう時のように、
反射的に口をあけてしまった。
アイリスが、大きく削れたチョコのかけらをボクの口にほおりこむ。
ん…滑らかで甘みが少なく、嫌味の無い苦味が程よく口の中に広がる。
ボク好みの味だ。

「アイリス…」

呼びかけて、お返しに、ボクが刻んでいたチョコのかけらの中で
一番大きな物を摘まむと、
間髪いれずアイリスが口を開いた。
くす…
思わず漏れてしまいそうになった笑いをかみ殺して、
アイリスの口にぽんとチョコのかけらを置いた。
モグモグと咀嚼すると、アイリスはその食べたチョコのような
甘い笑顔を浮かべた。

「ん〜〜v おいし〜♪」

ボクとアイリスはお互いに微笑みあうと、
またサクサクとチョコを削った。

刻み終えてから、チョコを湯せんする。
チョコを入れたボウルの底をお湯につけて、ゆっくり溶かす。

ビターチョコだけが入ったものと、
ビターとスィートの二種をブレンドしたもの。
ボクとアイリスの二人で、それぞれゆっくりと竹べらで混ぜる。
アイリスは楽しそうに、そして優しくチョコを混ぜている。
ゆっくり、ゆっくり…。
ボクもゆっくりと混ぜているけど、
どうも機械的に思える仕草になってしまう。

「おいしくなぁれ〜♪おいし〜くなぁれ〜♪」

アイリスが小さな声で歌っている。
ああ、そういう気持ちで混ぜてるから、
仕草が優しいくなってるのか…ボクもそんな気持ちで混ぜてみよう。

ほどよく溶けたチョコを型に流す。

型は球形とボトル型の二種。
一ヶ月前に紅蘭に依頼して作ってもらった。
中が空洞になるように、工夫してもらったものだ。
球形は二つ合わせると丸になる。
ボトル型は底にチョコで蓋をするような造りになっている。

今年のバレンタインのチョコは『チョコ・ボンボン』だ。

アイリスは、隊長にだけでなく皆にあげるのだとにっこりと笑い、
準備に一ヶ月前から取り掛かっていた。
もちろんボクも一緒に準備した。

ウィスキーとブランデーは原液で、それからドライフルーツを
一ヶ月つけたブランディーをアイリスが用意していた。

これは球形のチョコに入れる。ブレンドしたチョコで作ったものだ。
ほんのりと甘いチョコ。
半円型の片方にそれぞれの洋酒をいれ、
もう半分のチョコを断面部に溶かしたチョコを塗ってくっ付ける。
これで丸い『チョコ・ボンボン』が出来上がる。

ボトル型にはリキュールを。オレンジキュラソー、コ
アントロー、カシス…甘めのお酒をビターチョコで作ったボトルに
つめて、溶かしチョコで底をつける。

トクトク、ぺたぺた、ころころ…。

ボクは球形。アイリスはボトル型。
二人で一緒に作る。
お酒がこぼれたといっては慌て、ボトルの底が足りないといっては
慌てて作り足し…
二人で笑いながら作った。

出来上がった物を箱に詰める。
手の平にすっぽり乗るくらいの小さな箱に、
一個一個チョコを包みながら詰める。
皆にはボクとアイリスの連名で渡すから、半分ずつ作業した。

でも、隊長にあげる分は、二人別々だ。
ボクもアイリスも隊長のぶんだけ、ちょっと特別。

箱もちょっと大きめだし、中に1個だけお互いに中身を内緒にした物を
つくって詰める事にしていた。

全てを包み終わり、後片付けをして一息ついたボクたちは、
紅茶を飲む事にした。
お菓子作りは楽しかったけど、やっぱり慣れない事だから少し疲れた。
心地よい疲れではあったけれど、アイリスも少し疲れていたんだろう。
ほっとしたような顔つきで、紅茶のカップに口をつけていた。

「ん〜、おいしっvv」

「…うん、おいしい」

紅茶にたらしたコアントローがいい香りをかもしている。
二人、無言のまましばし紅茶とその香りを堪能した。
最近はこうして無言のまま、ただ一緒にいることも多い。
でも、それは嫌な沈黙じゃなく、
ボク達の間には穏やかな空気が満ちていた。

「あ、そうだっ」

そう言って、アイリスはエプロンドレスのポケットをゴソゴソした。

「レニ、手をだして」

「・・・?」

言われるままボクが手を出すと、その手の平にチョコボンボンを一つ乗せた。

「アイリス、これ…?」

「お兄ちゃんにあげるのと、おんなじチョコボンボンだよ」

ボクは思わず、クスリと笑ってしまった。

「え?なになに〜?アイリス、ナンかヘンなことした?」

首をかしげて不思議そうに言うアイリスの手をとると、
ボクはジャケットのポケットから『それ』を出して置いた。

「あっ、これって…」

ぱっと顔を上げたアイリスに、ボクは微笑んで言った。

「ボクも同じ事を考えてたみたい…。アイリスにも食べてほしいって思ったんだ」

「そっかぁ。アイリスも『レニにも食べてほしいっ』って思ったんだよ〜♪」

くすくすと二人で笑いあった。

「ねえねえ、アイリスのチョコボンボンたべてみて?」

「じゃあ、いっしょに食べようか…」

紅茶を入れなおして、
ボクとアイリスはそれぞれのチョコボンボンを味わった。

「これって……」

レーズンのブランデー漬け?
浸けてあったレーズンをペーストにして、
そのブランデーに混ぜて入れたのか…ブランデーの風味と
レーズンの甘みが調和している。
…美味しい。
思わず笑みが浮かぶ。

アイリスもボクの作ったチョコボンボンをモグモグと
食べながら笑みを浮かべていた。

ボクの作ったチョコボンボンは、中にグリューワインが
入っていた。本来は暖めて飲むワインだ。
けど、砂糖とスパイスの入ったものだからチョコに入れても
大丈夫だと思ったんだけど…。
よかった…美味しかったらしい。

「あ〜〜、おいしかったぁvv
ねえ、レニのチョコボンボンって、ワインが入ってるの?
ちょっと変わった味がしたよ?」

あ、すごい。
ちゃんと、ワインに色々と混ざっている事を感じたらしい。
アイリスが、かなりしっかりした味覚を持っていることは
知っていたけど、どちらかというと『子供の味覚』が勝っていて、
明確な味付けのものを好むと思っていたから…
チョコと一緒に味わったはずのワインの微妙な味まで識別したことに、
ボクは驚いた。
アイリスも色々と成長しているんだな…。

「うん…グリューワインが入っている。
スパイスや砂糖を入れた暖めて飲むワインだ」

「へぇ〜」

「アイリスのはレーズンを浸けたブランデーだったね…
美味しかったよ」

「えへへvvよかったぁ〜。
味見とかあんまり出来ないから、どぉかな〜って思ってたから…
レニがおいしいっていうんなら、だいじょうぶだねっ」

にっこり嬉しそうにアイリスは笑った。
思わずボクもつられて微笑む。

その後、ゆっくりとした空気が流れる中、
たわいもない話をしながら、ちょっとしたお茶会を終えた。

綺麗にラッピングしたバレンタインのチョコを籐かごに入れ、
二人で持った。

これから皆にチョコをあげにいく。

「みんな、よろこんでくれるかな〜?」

「今年のチョコは大人向けだし…きっと喜んでくれる」

「そうだねっ♪
あそうだっ!あまったチョコボンボン、あしたお茶するときにいっしょに食べようねっ」

「うん…明日はコーヒーにしよう。きっと、チョコ・ボンボンに合うよ」

「じゃあ、アイリスはミルクたぁ〜ぷりのカフェオレがのみたいっvv」

「くす…了解」


今年のバレンタインの贈り物は『チョコレート・ボンボン』

ボクとアイリスで作った、大人のチョコ。

去年より、少し大人になっているはずのボク達のチョコ。

みんな、喜んでくれるといいな…。







                        ・・・end









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『あとがき』という名の、言い訳

バレンタインも既に過ぎ去ってしまいましたが、
バレンタインSS です。
ホントは当日にカキコしたかったんですが、力及ばず、
2月18日となってしまいました(爆)

今年は、アイリスとレニにチョコを作っていただきました。
そして何故か、レニの一人称(笑)
なので文体がかなり説明的になってしまいましたね(^_^ゞ
レニは言及していませんが、チョコボンボンを作っている時の
アイリスは、結構色々やらかしてたと思いますよ。
ツマミ食いとか、ツマミ飲みとか…(マテ笑)
でも、酔っていないのがうちのアイリスです(大笑)

何にしても、少しでもこのSSで、甘い気分を味わって頂けたのなら幸いです。

では… 
      

☆ちょっと「つづき」☆

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